「ステークホルダー」って誰のこと?
ここに、1台の自動車があります。エンジンを開発した人、車体のデザインをした人、組み立てた人、ディーラー、運転する人、乗せてもらう人など、ほんの一部を挙げただけでも実に多くの人がこの車にかかわっています。今回は、プロジェクトに影響を与える/受ける「ステークホルダー」についてご説明します。
ステークホルダーとはプロジェクトの「利害関係者」のこと
「ステークホルダー」とは、辞書にあるとおり「利害関係者」を指します。プロジェクトに影響を与える人、プロジェクトの影響を受ける人を広く「ステークホルダー」と呼び、そこにはプロジェクトのメンバーも、メンバー以外の関係者も含まれます。
ステークホルダーの利害は「物理的」「心理的」の2種類
ステークホルダーがプロジェクトに与える、または受ける利害には「物理的」なものと「心理的」なもの2種類があります。
「物理的」な利害とは?
職場に新しいシステムを導入したことで「作業効率がアップし売上につながった」、逆に「開発コストが予算超過してしまい損害が出た」など、金銭的な利害はステークホルダーが与える(受ける)「物理的」な利害の一例です。
「心理的」な利害とは?
「心理的」利害とは、嬉しい、悲しい、悔しいなど、文字通りステークホルダーが「心理的」に与える(受ける)利害をいいます。職場に新しいシステムを導入するにあたって「今慣れているシステムから切り替えるなんて面倒くさそうだ」「新しいシステムが入ってこれで業務が楽になりそうで嬉しい」など、ユーザーの心の動きは「心理的」な利害になります。
ステークホルダーをもれなく洗い出す
冒頭で「ステークホルダーとは『利害関係者』のこと」と説明したとおり、ステークホルダーとなり得るのはプロジェクトの意思決定者だけではなく、そのプロジェクトによって影響を与える・受ける人をすべて含みます。また、プロジェクトが始まってから終わるまでだけでなく、プロジェクトが作った成果物をユーザーが使うまで、広い時間軸でとらえる必要があります。
例えば、A社では働き方の多様化を促すためにリモートワークを導入することになりました。このリモートワークの制度設計にあたってのステークホルダーは、
- 制度の導入について承認をするA社社長
- リモートワークの導入をすることになる部門
- 情報セキュリティの問題について検討する情報システム部門、法務部
- リモートワークが実質的な長時間労働にならないか監査する人事部
- リモートワーク社員をマネジメントする上司
- 実際にリモートワークを使う社員
などが挙げられますね。
さらに、いよいよリモートワークが導入されたあとに利害を与える(受ける)ステークホルダーも存在します。
- これから採用される新卒・中途就職者
- リモートワーク導入についてのプレスリリースを受け取ったメディア関係者
- A社の株主
- リモートワークを利用する社員の家族
- A社の取引先
ステークホルダーの確認・承認・合意が大切
上記のように、プロジェクトを円滑に進めるには、これらのステークホルダーをもれなく洗い出し、確認・承認・合意をきちんととっておく必要があります。
例えば、前述のリモートワークを導入するプロジェクトの会議にて、A社社長や部門長といった意思決定者にはプロジェクトの合意をとったものの、情報システム部門や法務部への確認を怠っていたとしましょう。その結果、リモートワークの情報セキュリティに問題が発覚してプロジェクト自体がやり直しとなり、コストが余分にかかってしまいました。このような場合には、ステークホルダーの洗い出しが十分でなかったといえるでしょう。
もう1つ、社外のステークホルダーを意識できていなかったために失敗してしまった例をご紹介しましょう。
B社がある新製品のCMを放送しました。しかしそれが消費者の反感を買い、急遽CMを差し替えることに。B社は反感への対策・CMの出稿取りやめ・CMの作り変えなど、想定外の大きなコスト負担を強いられることになりました。これは、消費者というステークホルダーがそのCMについてどう感じるか、心理的な利害を考慮していなかったために起こったことです。
テレビCMを視聴する消費者全員の合意をとるのは難しいことですが、CMを制作する前に消費者意識についてマーケティング部門に確認をとったり、調査会社を通じてサンプリング調査するなどして、消費者全員の合意をとったのと近い状態にする努力は重要。情報がすぐに伝わり伝播してしまう現状においては、社内だけでなく社外にいるステークホルダーの心理的利害も意識して、対策を実施することが必要不可欠になっています。
実際にこんな事例も
これは、最近実際にあった例ですが、三菱自動車工業が「星空見上げるプロジェクト」と題したCMで、出演者の女性が夜空を見上げるつもりでのぞいた望遠鏡の向きが天地逆になっていたことが判明。CMの一部が削除されました。燃費不正問題からの信頼回復を図る途上での同社の思わぬミスは、三菱自動車の顧客のみならず、天文ファンからも「不誠実だ」というコメントが。CMの一部変更による「物理的」影響、顧客・天文ファンからの不満という「心理的」影響が発生した事案でした。
参考リンク:
まとめ
- ステークホルダーとはプロジェクトの「利害関係者」のこと。
- ステークホルダーが与える・受ける利害は「物理的」「心理的」の2種類がある。
- プロジェクトの意思決定者だけがステークホルダーではない。ステークホルダーをもれなく洗い出そう。
- ステークホルダーの確認・承認・合意をとらないと、プロジェクトに支障をきたすことがある。直接確認・承認・合意がとれない場合は、できるだけ確認・承認・合意がとれている状態に近付ける努力をする。